【活動報告記事】2026年8月15日
題材提供:『つくることとAI』の要点
冒頭、担当メンバーより書籍の要点が紹介されました。著者はAIを自ら開発しながらDJ・アーティストとして表現活動も行う、「作る側」と「問い直す側」の両義性を持つ稀有な存在です。
紹介された主な論点は次のとおりです。
第一に、生成AIによる創作の普及は「民主化」というより「消費財化」と捉えるべきだという視点です。誰でも作詞作曲ができるようになったのは事実ですが、著者はそこに安易な礼賛を持ち込みません。
第二に、「壊れたコピー機」という比喩です。生成AIの出力は一点ものという意味ではユニークですが、オリジナルではない——著者はこれをカタカナの「フクセイ」と呼びます。精度が上がるほど「それっぽいもの」が大量に生まれる、という指摘は参加者の腹に落ちるものでした。
第三に、AIというスーツケースワード(中身の曖昧な言葉)に踊らされないこと。AIの得意領域は既知の内側での平均化と探索であり、既知を超えられるのは人だけである、という整理です。テキストのみで学習したLLMは世界への本質的理解を欠くという限界論にも触れられました。
そして本書の核心は「価値ある失敗・逸脱」です。人間が頭と手で試行して創作する中で生じる失敗や逸脱こそ手放してはならない。評価基準を定義できない領域が、人間に残された最も楽しい主戦場になる——これが著者の最も伝えたいメッセージとして紹介されました。
創造性の3分類と知財への示唆
書籍の枠組みを踏まえ、創造性を「組み合わせ」「探索」「変革」の3つに分類する議論も行われました。既知×既知の新結合(例:iPhone=ブラウザ×音楽プレーヤー×電話)や、既知の表現がつくる探索空間の中から未特定の表現を見つけることはAIが人間を超えつつあります。
一方、探索空間そのものを拡張する「変革」は人間にしかできない——「人は本当に欲しいものをまだ知らない」というスティーブ・ジョブズの言葉が引かれました。
ここから知財実務への問いが提起されました。当業者が皆AIを使う前提になれば進歩性の基準は実質的に動くのではないか。ユニークだがオリジナルではない生成物に創造性・著作物性を認めるべきか。依拠性・実質的類似性をどう扱うか。そして「価値ある失敗・逸脱」を守るために特許法・関連法令はどうあるべきか。いずれも結論の出ない問いですが、制度論として議論を持ち込む価値のあるテーマであることが確認されました。
討議:人間とAIの境界はどこにあるか
後半の討議では、多角的な意見が交わされました。あるメンバーからは「人間とAIは大差ない」という仮説が示されました。アマチュアのクリエイターも模倣から始まり独自性に至るのであり、差は組み合わせ結果への価値判断の有無だけ。市場評価をフィードバックする仕組みを組み込めば、AIも守破離の「破・離」に到達し得るのではないか、という問題提起です。
これに対し、クリエイティブの現場を知るメンバーからは「AIは批判を恐れない」という視点が加わりました。人間のクリエイターは世評を想像して自制しますが、AIは気にしません。その前提を外せば、AIの方が独創的になり得る可能性があります。
また、疲労・忘却・摩擦といった身体性由来の「抜け落ち」こそが第三者の面白がる表現になる、という能や実演の世界観からの指摘もありました。AIには疑似的にしか作れない領域です。
研究動向に詳しいメンバーからは、「問題は創造性より多様性ではないか」という知見が紹介されました。囲碁ではAI登場後にプロ棋士の活用を通じて新しい定石が生まれた一方、創作実験ではAIが先にアイデアを出すと発想が収斂し、人間先行+AIブラッシュアップなら多様性が維持されるという結果が出ています。
AI起源の語彙が人間の話し言葉に浸透して言語が収斂し、それをAIが再学習するループも進行中であり、「価値ある失敗・逸脱」は多様性の維持と読み替えられる、という整理は討議の一つの到達点となりました。
最後に守破離と評価関数の議論です。「守」はAIが一瞬で完遂できる。「破・離」は外部評価の仕組み次第。囲碁・将棋には勝敗という評価関数がありますが、音楽や美術にはありません。AI楽曲がヒットチャート1位を獲得しながら専門家の評価と乖離した例のとおり、権威の評価と商業的成功はリンクしない——結論の出ない問いを楽しむ、ゼミらしい締めくくりとなりました。
その他の活動報告
ゼミに加えて、メンバーの主導するプロジェクトの進捗共有が行われました。
一つは、知的財産をテーマにしたエンターテインメント・コンテンツの開発プロジェクトです。プロトタイプ検証を重ねる中で、教育・研修色を前面に出すのではなく、まず純粋に面白い作品として成立させる方針への転換が報告され、今後の展開構想や権利保護の考え方についてメンバー間で意見交換を行いました。
もう一つは、生成AI時代におけるクリエイターの権利管理・収益還元に関する新規構想の頭出しです。メンバー自身が自らの声や演奏素材のみを提供してAIで楽曲を制作・配信した実例が紹介され、こうした実体験を踏まえた構想の本編説明は次回に持ち越しとなりました。
当会は今後も、AIと知的財産の交差点における「結論の出ない問い」に対しても正面から取り組む場として活動を続けていきます。
