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【活動報告記事】2025年9月3日

今回は久しぶりにストレートに特許出願手続に関連する話題について深掘りした議論になりました。特許出願したことがある方であればご存じの方も多いと思いますが「共同出願」という手続きをすると思わぬリスクに遭遇することがあります。それは「譲渡やライセンスの同意権」の問題です。

複数の当事者で共同事業を進める際に「特許も共有で」という話は自然な流れであり、実際に多くの共同出願がなされています。ところが、出願から20年というかなり長期間強力な効力を有する特許を共有すると、“お互いに相手を縛る”ことができてしまいます。よく共同出願は「結婚と同じ」と例えられることがありますが、どちらかというとリスクの観点で語られることが多いです。

具体的なリスクとしては、特許が共有となった場合、お互いにその発明を実施するのは自由だが、第三者にライセンスをする際にはお互いに「ちょっと待った」がかけられることです。このようなルールになっている背景は、特許の共有者同士はお互いのことをよく分かっているはずなので、その発明を“当然に実施する”ことは想定されているので問題ないが、例えば共有者の一者が巨大な資本力、営業力を有する第三者にその実施をライセンスして儲けようとした場合、他の共有者のシェアが奪われたりする予期できない事態が発生する可能性があるので、それを止める(同意を拒否する)ことができるようになっています。

現実的には出願から20年の間に共有者同士の関係性が壊れる可能性も十分にあり、そうなると第三者へのライセンスを禁止できてしまう「同意権」の存在に初めて気づくことが多いのです。



そしてもう一つ、「出願審査請求」の問題です。日本においては特許出願しただけではそのまま内容を審査することはなく、出願から3年以内に出願審査請求することで始めて内容の審査(特許に値するかどうかの審査)がなされます。

出願人は審査で有利になるので一日でも早く出願する一方で、本当に権利が必要になるかどうかはわからないので、3年の間に本当に権利が必要になったら改めて「出願審査請求」手続を行って、内容の審査をスタートさせることができるようになっています。逆にそれをしないと特許出願の内容は公開によりパブリックドメインになり誰でもその発明を実施できることになります。


ここで「共同出願」×「出願審査請求」という二つの手続きを掛け合わせた場合の利害得失が問題となります。特に特許発明が第三者へのライセンスにより実施されるシーンが多ければ多いほど、出願審査請求をして権利を成立させる方が良いのか、パブリックドメインにするほうが良いのかを慎重に見極めて出願審査請求をすべきかどうかの判断をすることが重要になります。


例えば、共有者の一者が自己実施が容易で、他者は第三者へライセンスするしかない場合、その一者にとっては権利は成立したほうが有利、ということになりますし、逆にその一者が自己実施が困難で第三者にライセンスする必要があり、他者は自己実施が容易である場合、その一者にとっては権利は成立しない方が有利、ということになります。


ただし、後段の場合は発明がパブリックドメインになると共有者以外の第三者も自由に実施できることで自らのシェアも奪われる(コモディティ化する)可能性も考慮してどちらが得かを考えることになります。


誰にとっても20年後のことまで想像することは難しく、「結婚と同じ」という言葉が表す”重み”を理解したうえで共同出願の際に悔いのない判断をしておくことが重要ですが、「結婚後」に関係が壊れた場合にどのように振舞ったらより有利になるか、というシナリオ分析を正しく行うこともまた現実問題としてかなり重要になってきます。


本日の議論の中で、「共同出願」も“離婚できないのか?”という話題も出ましたが、実際の婚姻関係とは異なり、関係が壊れて協議ができないと関係解消を申し出る側は自らの権利を「放棄」することしかできなくなり、「同意権」まで返上することになるので全く得なことにならない、ということになります。そうした意味では「共同出願」は「結婚より重たい」判断ということになります。


当会ではこのような“複雑怪奇”な知財のルールに関するご相談もお待ちしております。

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